東京高等裁判所 昭和57年(ウ)193号 決定
1 本件記録によれば、本件の本案訴訟は、申立人ら(控訴人ら)が相手方(被控訴人)国に対して国家賠償法に基づき国家公務員の不法行為を理由として損害賠償と謝罪広告を求めるもので、その主張の要旨は、「控訴人医療法人双葉病院は、昭和四七年二月二一日から同月二八日まで法人税法違反の嫌疑をもって仙台国税局から査察調査を受けたが、その査察調査を指揮監督した仙台国税局調査査察部長渡部誠夫は昭和四七年二月二八日右査察に関して取材にきた福島民報、河北新報及び福島民友の各新聞記者の取材に応じ控訴人双葉病院が過去三年間にわたり経費を水増して数千万円の脱税をしており、控訴人鈴木市郎がその理事長として右脱税を操作し、脱税した金員を自己の他の事業や医科大学の入学金に流用していた旨答え、各地元新聞は右の趣旨を報道した。しかし、右調査査察部長渡部誠夫の答えたような事実はなく、結局控訴人双葉病院を告発をすることはできなかった。すなわち、調査査察部長渡部誠夫は新聞記者に虚偽の事実を発表したものであり、仮に右発表が事実であったとしても、公務員の守秘義務に違反する。控訴人双葉病院及びその理事長である控訴人鈴木市郎は右違法な発表に基づく新聞報道により、名誉、信用が著しく傷つけられたので、被控訴人国に対し損害賠償として弁護士費用を含めて各三三〇万円の支払と謝罪広告を求める。」というのであり、これに対して被控訴人は、仙台国税局調査査察部長渡部誠夫が昭和四七年二月二八日右新聞記者らの取材に応じ、控訴人病院が経費を水増しして過少申告しており、それによって浮かした金員を理事長の大学入学金や病院設備の拡張資金に充てていたものと思われると述べたことを認めていること、控訴人らの指摘する被控訴人の昭和五六年二月二三日付準備書面八丁表四行目から六行目までには「渡部の本件犯則事件についての判断の資料となったのは、原告ら摘示の書証のみではなく、該書証に加えて、銀行、証券会社の調査事績を含む初動調査の結果についての査察官の報告である。」との記載があることが認められる。
2 右事実によれば、査察官の報告には口頭によるもののほか書面によるものがあることが推測され、従って、右準備書面は初動調査の結果についての査察官の口頭の報告及び報告書(A文書)全部を引用した趣旨に解される。
しかしながら、渡部誠夫が昭和四八年二月二八日右新聞記者に発表した内容が真実であること又は真実であると信ずるについて相当な理由があったことは、抗弁として被控訴人の主張、立証すべき事項に属し、単に抽象的に「初動調査の結果についての査察官の報告」と主張するのみではなんらの立証にならず、右抗弁の理由の有無は被控訴人から現実に提出された証拠によって判断されるのであり、証拠の不提出によって不利益を受けるのは被控訴人であるから、本件において控訴人よりA文書の提出命令を申立てる必要性はないものといわなければならない。
(川添 鎌田 相良)